あってはならない攻略本
道具袋にあると困る7のお題 <7>
− あってはならない攻略本 −






 どうしよう。
 机上にある、まだなにも書かれていない原稿用紙を眺めて、わたしはため息をつく。
 書けないっていう悩みとはちょっと違って、その前。なにを書こうかっていう段階で躓いてしまっている。
 一応「詩人」の名を持っているわたしは、自分たちの冒険を文章にして、雑誌に掲載させてもらっているのです。おかげさまで好評だったりして、たまにいただく手紙なんかを見ていると、もうほんと、書いてよかったっていう気持ちになる。どんなに「もう駄目」って思っても、もうちょっと頑張って書こうって、そういう気持ちにさせてくれるんだよね。
 ひとつのクエストを書き終えたところで、次回はなんの話にしようかなーって、そのことについて思案しているところなわけ。
 一口にクエスト談っていっても色々あって、勿論わたしたちみたいなパーティだから、高レベルのモンスターが出てくるような派手なお話になんてなるわけないんだけど、だからといって、平凡すぎてもつまらないといいますか。そこは書き方次第、腕の見せ所って気もするんだけど、ありもしないことを過大評価はさすがにできないもん。
 そんな風に「物語にすらならない話」は、結構あったりするんだよね。
 例えば、むかし。こんなことがあった。
 あれはまだ駆け出しの頃。
 ひよっこもひよっこで、このシルバーリーブを拠点にして、まだ間もない頃だった。
 さてまずどうしようかって話で、そもそもクエストなんて呼べるものに挑戦自体出来るのか? って、自分たちですら思ってしまうような頃で。だけど、冒険しないことにはレベルも上がらない。だからってやみくもにどこかへ出かけても危険な目にあうだけで。
 わたしたちは、前にもうしろにも行けない、なにから始めようかってそんな悩みを抱えていた。
 そんな時、シナリオ屋のオーシが渡してくれたのが、ちょっとしたクエストだった。
 いや、クエストなんていえるもんでもないんだけど。


「おう、おめーさんたち。そろそろなにか買わねーか?」
 見るからに初心者のわたしたちにも営業なんて、商魂たくましいというかなんというか。
 わたしたちがここ、シルバーリーブにやってくるキッカケになったクエスト──「骨折り損のくたびれ儲け」っていう、わたしたちにとってのはじめてのクエストだ──、あの時、盛大に笑ってくれて以来、オーシと会話らしい会話なんてしていなかったから、余計にそう思う。
「どんなクエストがあるんだよ?」
 トラップが問うと、オーシは胸を張って答える。
「そりゃーもう、ありとあらゆるもんを取り扱ってるのが、うちのウリだ」
「あの、でも……」
「おれたち、とてもそんな余裕は」
 わたしがいいかけた言葉を、クレイが補完する。
 そうなのだ。レベル的にも、金銭的にも、ね。
 大体、わたしたちの状況ぐらい、言わなくたってわかってそうなのに。
「じゃあ、こいつはどーだい? これは超がつく初心者用のクエストだ。出世払い──、今度、飯でも奢ってくれりゃーいい」
 そう言ってオーシがくれたのは、地図とひとつの冊子だった。



「なんだ? これ」
 道の端に寄って、顔を突き合わせて中を見て、まず声をあげたのはトラップ。
 彼の言葉は、みんなの気持ちを代弁していた。
 ほんとに、「なんだこれ?」って感じ。
 地図はいいとして、問題は冊子の方。
 表紙には、こう記されていたのだ。

『アクラの林 攻略法』

「攻略法って、なんだよ」
「攻略する方法ってことでしょう」
「んなこたーわかってんだよ。なんだってそんなもんがあんのかって話だよ」
 真顔で返したキットンの頭を、すかさずトラップが叩く。
 トラップと喧嘩をはじめたキットンの手から冊子を抜き取ると、クレイが中をめくりはじめる。わたしも横に寄り、それを覗きこんだ。
 それはまさしく「攻略法」と呼ぶにふさわしいもので、林の入口から出口までの経路が記されている。分かれ道もちゃんと入っているし、これを見れば出口まで迷うことなく行けそうだった。
 はぁー、なんなんだろうこれ。
「たしかに、超初心者向けって感じだよな」
 クレイは苦笑して、わたしを見た。あのオーシってシナリオ屋が、タダ同然で渡してくれたのも納得だ。ある程度のレベルの冒険者は、こんなクエスト行くわけないもの。
 クレイから冊子を借り、最初のページからめくってみる。


 これがあれば、一発解決☆
 あなたの冒険を完全サポートいたします!


 一ページ目にそんな言葉が踊っている。
 次のページには、「冒険に出かける前のチェックポイント」と称して、箇条書きで文字が並んでいる。準備しておいた方がいいものとか、あれば便利なものだとか。要所要所には、ケッコー通販の広告も入っている徹底ぶり。さらには、現れるモンスターの種類。攻撃のアドバイスなどなど。
 至れり尽せりな、これぞまさしく「ザ・攻略本」
 はぁー。ここまでお膳立てされちゃうと、失敗するのが恥ずかしいっていうかなんというか。
 そもそもこれは、成功失敗のクエストじゃないみたいなんだけどね。
 つまりこれ、冒険をはじめたばかりの初心者が、とりあえず経験を積むための第一段階。簡単に倒せる敵がいる──つまり、経験値稼ぎの場所ってわけ。
 ある程度のレベルまで上がってしまうと、次にレベルが上がるまでの経験値って半端じゃないけど、最初の最初は、小さな敵を連続して倒していけば、簡単にレベルアップが出来る。
 このクエストは、そういう目的で配布されているものらしい。
 各地域に同様の場所があって、そういった場所を見つけて、初心者の為にと、冒険者支援グループがシナリオと一緒に提供していることが、この本の最後に記されていた。

「なあ、いいんじゃないか? ひとまずここに行ってみるってのもさ」
 クレイの提案に、わたしたちはそれぞれ答える。
「そうですね、今の我々には他にすることもありませんし」
「じゃあ、準備しないとね」
「しあいとね」
「その前に、メシ喰おーぜメシ」
「ルーミィもー、おなかぺっこぺこだおう」


 そうして出かけた先では、あまり順調ともいえないことが繰り広げられたわけだけど。
 それはまあ、本当に「お話にもならない」話なのである。

















 初期の初期の初期なんて、ろくに描かれてないのをいいことに、捏造捏造。
 オーシのキャラがいまいちわからなくて、微妙微妙。





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