涼しい風
02.涼しい風




 気持ちいいけど、気分は暗い。

 春の風は温かいけれど、寒さも緩和した昼間となれば、
 温かいより、生温いと感じてしまうこともある。
 冬の間は、あれほどまでに「温もり」を求めていたにも関わらず、
 気温が上がれば上がるほど、それを「不快」だと思ってしまうのだ。
 だからこうして、水面を吹く風がとても涼やかで気持ちいいと感じるのは普通のことで。
 けれど、それとは裏腹に気落ちしている今の自分。
 寒い冬は嬉しくないけれど、秋や冬にはとてもいいことがある。
 それはつまり、「水泳の授業がない」ということだ。
 自分は泳げない。
 だから、泳ぐことを前提にした夏は嫌いだ。
 夏休みは嬉しいし、水に浸かることは気持ちいいけれど、
 浮き輪持参でないと、何もできない自分がイヤになる。
 なら、冬の方がいいのかと問われたら、そうとも言い切れない。
 周りが嫌味みたいに泳ぐ夏は嫌いだけれど、夏にはいいこともある。
 それはつまり、「編み物に興じる人がいない」ということだ。
 自分は不器用だ。
 だから、毛糸を転がしてこれ見よがしに机で編み物をする冬と秋は嫌いだ。
 涼しい風に舞う枯れ葉たちを見るのは好きだけれど、
 編んでも、目の大きな網にしかならない自分の手先はつくづくイヤになる。
 なら、夏の方がいいのかと問われたら、そうとも言い切れない。
 春も夏も秋も冬も。
 いいところも悪いところもあるから。
 一長一短には言い切れない。
 季節が巡るたび、その季節の負の面を嫌う。

 早く過ぎてしまえばいい。
 この風のように、吹き抜けていけばいい。
 風に乗って夏を飛び越えて。
 水の力を借りず、本当に涼しい風が吹く頃には、

 きっと巡りくる「編み物」の季節を、あたしは憂うのだ。