道端の小さな花
03.道端の小さな花




 はじまりは同じだった。
 同じ場所にいて、同じ速度で育っていた。
 けれど、いつしか私は取り残されていた。

 どんなに手を伸ばしても、届かない空。
 遮られて、太陽の光は私には届かない。
 周囲にいる大輪の花と、大きな葉に邪魔されて。
 私は這いつくばるようにして生きている。
 私の見える世界は、足ばかり。
 汚れた靴、泥がこびりついた靴、長靴、パンプス、ヒール、ミュール、
 犬、雀、鳩、猫、豚、アヒル。
 たくさんのたくさんの姿が通り過ぎていくのを、ぼんやりと眺めて生きている。

 誰かが倒れこむ。
 私のすぐ傍に顔が見える。
 木刀がカランと倒れ、足音が遠ざかっていく。
 倒れたままの人を私は眺め、ただ時は過ぎてゆく。


「綺麗な花が咲いておる」

 影が出来て、周囲は一層暗くなる。
 大きな手が伸びてきて、私──ではなく、その隣にいる花が手折られた。

「シャンプーにプレゼントじゃ」

 刈り取るように、私の周りがぽっかりと空いてゆく。
 ぶつりぶつりと消えてゆく。
 そのぶん影が消え、私の周りに光が満ちてくる。
 しばらくして人は去り。
 そうしてそこに私だけが残された。
 ふと隣を見やる。
 かつて私を見下ろすように存在していた花はもういない。
 吸い上げられた水が行き場を失い、折れた茎からじんわりと垂れている。
 やがて日の光に照らされて、大気へと還るのでしょう。
 そしてまた大地を満たす雨となり、
 いつかきっと私を満たす命になる。

 ぽっかり開いた場所。
 空が見える。
 空は高い。
 空は遠い。

 邪魔する影も、邪魔な花たちもいない。
 私だけの場所は、
 私だけの場所になればいいと願ったその場所は、
 思っていたよりもずっと孤独な場所。
 明るくなった世界で最初に見たのは、
 白と黒の毛に覆われた、動物の姿。

「親父、いくらひもじいからって雑草なんて喰うなよ」


 最後に聞いたのは、そんな声。