誰かの目線
04.誰かの目線




 濡れた髪というのは、妙に艶かしい。
 ふんわりと香る石鹸の匂いだとか、シャンプーの香りだとか。
 相乗効果で、どぎまぎする。
 目のやり場に困るような、それでいて見ていたいような。
 ぺったりと髪が貼りついたうなじ。
 細い首はより一層細く見える。
 わずかに垂れる水滴。
 タオルでぬぐう手先。
 目線を落とした横顔。
 ほんのり染まった頬も、
 瞬きする様子もまた麗しい。
 たっぷりとしたパジャマを着ていても、華奢な身体はよくわかる。
 拳を叩き込んだら、ぽっきり折れるんじゃないかと思うほど。
 そんな身体のどこからあんな力が出てくるのか、未だに理解不能だ。

 居間の机に押しつぶされた状態のまま、そんなことを思った。