手が届くようになった
06.手が届くようになった




 小さい頃から傍にいて。
 傍にいながらも、届かない存在だった。
 憧れだと人はいう。
 高嶺の花だと人はいう。
 けれど自分には違った。
 他の誰かと違うと、思った。

 手に触れることは難しいけれど、
 傍にいることは許されていた──と思う。

 たくさん殴られたし、
 たくさん騙されたし、
 たくさんたくさん足蹴にされたりしたけれど、
 それは自分にだけ与えられた特権だったと、そう思う。
 ずっと傍にいたから、
 ずっと見ていたから、
 だから、哀しいけれどわかることもたくさんある。


 手に入れることは出来ないけれど、
 この手で触れることは出来る。
 殴りかかる手を止めることも出来るけれど、敢えて殴られてみたりする。
 小さい頃は同じだった背丈も、すっかり追い抜いて、
 足の長さに手の長さと、リーチはすっかり変わったけれど、
 殴られるぶんだけ、
 なじられるぶんだけ、
 相手にされていることを嬉しく思う。
 誰を見て、誰を追いかけていても、
 今も昔も、変わらないそのことを嬉しく思う。

 だから今は、それでいい。

 いつか手に入れられる射程内にいられることを、嬉しく思うから、
 すぐに手が届く範囲で、君をずっと見ていたい。