ほのかな恋心
07.ほのかな恋心




 それは例えるならば、野に咲く花のような心。

 陽だまりの中に、それはある。
 彼の人を見ると、心臓が踊る。

 遠くにあると、とても穏やかだけど、
 近くにあると、ひどく不安定になる。

 相反するふたつの気持ち。
 それが奇妙に同梱していて、
 自分でも不思議だけれど、不快ではない。


「こんにちは、東風先生」

 彼の人の声は、女神にも似た大らかな愛に満ちた響きがする。

「いつもいつも、あかねがお世話になって……」

 そんな、お世話になりたいだなんて──

「これ、たくさんいただいてしまったので、皆さんに差し上げてるんです。先生も、宜しかったどうぞ」

 ああ、かすみさんが僕のために、わざわざっ。



 女神の愛は、無償の愛。
 分けへだてなく与えられる、平等な心。

「いい人」はしょせん「いい人」でおわるかもしれないことは、言わぬが花。


 小さな恋心。
 ほのかな恋心。
 それは例えるならば、野に咲く花のような心。

 例えるならば、踏みにじられるかもしれないもの。