04 : それは、もう、戻れない日々の、まるで奇跡のような人だった。
04 : それは、もう、戻れない日々の、まるで奇跡のような人だった。
どうしてだかわからないけれど、
自分はそれを思い出す。
いつだったのか、とか。
他に誰かいたような気がするとか。
付随することはとても曖昧だけれど、
それだけは、不思議にありありと思い出される。
すぐに忘れてしまう自分の記憶力に反するように、存在しつづける。
薄れていく日々の記憶の中で生き続けるその人は、まるで奇跡のようだ。
だから、今日も刻み付ける。
忘れないように。
覚えていられるように。
夢にしてしまわないように。
たしかに現実だったと確認するために、
彼は今日も、壁にその名を刻んでゆく。