08 : 一度捕まってしまったら、もう何処にも逃げ場は無い
08 : 一度捕まってしまったら、もう何処にも逃げ場は無い


 がっしりと掴まれているわけではないけれど、
 その手を振りほどくことはできない。
 おそるおそる視線を動かすと、輝く笑顔がそこにある。
 こちらの方が背丈があるのだから、それは当然ではあるけれど、
 この上目使いは、かなり卑怯な技だと、いつも思う。
 大きな瞳で見つめられると、言葉が出ない。
 ごくりと唾を呑む音が、頭の中に木霊する。

 ああ、神様。

 逃げられない。
 この状況から逃げる術は、自分には残されていない。
 家には誰もいなくて、自分と彼女の二人しかいないのだから、
 そうなることは、容易に想像がついたはずなのだ。


 濡れた瞳の許婚。
 頬を染めた許婚。
 可愛い唇が動いて、己の名を呼んだ。


「乱馬。お昼御飯よ。たくさん食べてね」


 ああ、神様……