心の鏡 side:??
心の鏡 side:??
おれは今日、やっとあかねさんの住むこの町に辿りついた。
長く、険しい道程だった。
だが、そんな苦難もあかねさんの前では消し飛んでしまうだろう。
「おかえり、Pちゃん」
ああ、あかねさん。
もしも心を映す鏡があるのならば、おれは今、君色に染まっています……
そんな幸せな時、乱馬の奴がやってきた。
おれが帰ってきていると知るやいなや、こうしておれとあかねさんの間に入ろうとする。
あかねさんが持っていた毛糸の塊を見た乱馬が、またあかねさんにひどいことを言いやがった。
おれの見ている前で、二人は喧嘩を始めた。
乱馬の野郎、おれとあかねさんの時間を邪魔しやがってっ!
「誰もあんたにあげるなんて言ってないでしょ! これはPちゃんにあげるんだからっ」
あかねさんがそう言っておれを抱き上げた。
ああ、あかねさん。
おれのために手編みのマフラーを作ってくれるんですね。
もしも心を映す鏡があるのならば、おれは今、薔薇色に染まっています……
あかねさんの温かい胸の中。
ああ、あかねさん
ふっと温かさが消えた。
おれの身体は乱馬によって吊り上げられていた。
この野郎、なにしやがる!
おれは乱馬の手に噛み付いた。
「痛ぇーじゃねーか、この豚っ!」
乱馬によって振り払われ、おれは床を転がった。そんなおれをあかねさんが優しくいたわってくれる。
「Pちゃんいじめないでよ。豚にヤキモチなんて、ばっかみたい」
「だ、誰がおめーなんかに」
「ふーんだ」
不機嫌そうな顔をしながらも、あかねさんはどこか嬉しそうだ。だが、乱馬の奴が言った言葉で、あかねさんの顔が強張ったんだ。
「けっ。んなぼろっちいもん喜んでつけるの、その豚ぐれーなもんだろっ」
それからのあかねさんときたら、見ているこちらがかわいそうなくらに沈み込んでいた。
ああ、あかねさん。
あなたのその繊細な心。このおれが癒してあげたい……
おれはあかねさんの側に留まることに決めた。
乱馬なんか相手にすることはない。あんな最低野郎のことは気にせずに、おれと、おれと……
あああ、これ以上は言えーん
身もだえしていると、あかねさんの姿が見えない。
どこに行ったんだっ
しかしこの部屋を出て、また再び戻ってこられるとは限らない。あかねさんがあーである今、そんな危険を冒すわけにはいかん。
おれは待った。
あかねさんを待った。
しばらくすると、声が聞こえた。
あかねさんと──乱馬だ。
階段を上がりながら、なにか話しているようだ。そして部屋に入ってきたあかねさんの顔は、いつもの、あのかわいらしい笑顔が戻っていた。
あかねさん、やはりあなたには笑顔がよく似合います。
クローゼットを開けると、あかねさんは丸まった毛糸を取り出した。
それを見つめ、そしてまたなにかを思い出したようにして微笑む。
ベットに腰かけ、おれを抱き上げて胸に抱き、呟いた。
「頑張ったらあたしにだって、出来るよね、ね、Pちゃん」
零れる笑顔が眩しいです、あかねさん。
「さぁ、まずはこれ、Pちゃんに作ってあげるね」
あかねさんはまた編み始めた。
編みながらおれに話し掛ける。
あのね、Pちゃん。乱馬がね──
ねえ、Pちゃん。さっき乱馬ったらね──
そうだ、Pちゃん。乱馬が──
乱馬、乱馬、乱馬、乱馬
あかねさんは乱馬のことしか頭にないのか──……
何故、何故なんだ──
ああ、あかねさん。
おれのこのガラスのようなハートは、粉々に砕け散ってしまいました……
あかねさん。
君がおれのために編んでくれた腹巻きを手に、おれは旅に出ます。
お元気で……
まだ一度も良牙を書いてないなーと思い、Pちゃんが出せたんでやってみました。
良牙って結構ポエマーってゆーか、これはちょっとうざい(笑) すまん、良牙。やり方を間違えたよ。
【2003.08.08】